ウィキペディアでまちおこし
🏘️地域の百科事典をみんなでつくろう
著者: 伊達 深雪 (だて みゆき)
本書は、インターネット百科事典「ウィキペディア」を活用した地域活性化イベント「ウィキペディアタウン」について、著者自身の京都府丹後地方での豊富な経験(主催、参加、司書、講師)をもとに解説します。
ウィキペディアタウンは、地域住民が協力して地元の歴史や文化を調べ、ウィキペディアの記事を作成・編集する活動です。これにより、地域情報のデジタルアーカイブ化、地域への関心喚起、観光促進(スペインの事例では年間約10万ポンドの観光収入増)、教育(調べ学習・探究学習)、コミュニティ形成(「強固な地域力」)など、多岐にわたる意義が期待されます。
2013年に横浜で始まった日本のウィキペディアタウンは全国に広がり、2017年には関係者が「Library of the Year」優秀賞を受賞。本書は、その魅力、課題、可能性、具体的なノウハウを共有し、読者が情報の発信者・編集者となること、地域振興に活用すること、コミュニティ間の相互理解を深めることを目指します。
💡ウィキペディアタウンとは?
地域をテーマにウィキペディアを共同編集するイベント(エディタソン)です。
- 🌐起源: 英国モンマス (2012年)、日本は横浜 (2013年) が発祥。
- 🚶♀️日本の特徴: 当初は「町歩き+調べ学習」として普及。地域住民の関心喚起が主目的。
- 🎯目的: 地域情報のアーカイブ化、地域振興、観光促進、教育利用、コミュニティ形成。
- 📊効果: スペインの実験では、記事充実で観光収入増を確認。アイデア次第で多様な活用が可能。
- 🤝連携: 図書館関係者の協力で全国に拡大。市民参加型のオープンデータイベントとしても注目。
誰でも編集できるウィキペディアの特性を活かし、地域の魅力を掘り起こし、発信する取り組みです。
🐾事例1: こまねこまつり & edit Tango 発足
京都府京丹後市での初開催
- 背景: 丹後ちりめん発祥の地・峰山町の金刀比羅神社にある「狛猫」。町おこしイベント「こまねこまつり」が開催。
- きっかけ: 著者が地域学習資料としてのウィキペディア活用を模索中、こまねこまつり実行委員会(田中智子氏、小山元孝氏、廣瀬啓子氏ら)と連携。
- イベント: 2018年「ウィキペディアにゃウン」開催。参加者が狛猫や神社に関する記事を作成・編集。
- 成果: 地域初のウィキペディアタウン成功。記事(〈金刀比羅神社(京丹後市)〉〈こまねこまつり〉)は地域内外で評価。
- 発展: イベント後の反響と手応えから、地域編集ボランティアグループ「edit Tango」が発足。継続的な活動へ。
地域のキーパーソンとの連携と、イベント後の地元からの反応が継続の鍵となりました。
👩💻事例2: WikiGap - 埋もれた丹後の女性史
ジェンダーギャップ解消への挑戦
- 課題: ウィキペディア上の男女格差(女性に関する項目が少ない)。歴史的に記録が残りにくい女性の存在をどう記録するか?
- 視点: 有名人物だけでなく、地域の産業や文化を支えた名もなき女性たち(例: 丹後ちりめんの女工)にも光を当てる。
- 出会い: 書店主・東世津子さん(90代)。戦時下の経験、郷土の女性たちの聞き書き記録(『戦争中の暮らし』『丹後のはた音』)を残した活動を知る。
- イベント: 2020年「WikiGap by edit Tango」開催。
- 成果: 〈丹後ちりめんの女工〉〈東世津子〉〈松田道〉など15項目を編集。記事を通して、記録に残りにくい人々の営みを可視化し、後世へつなぐ意義を実感。
ウィキペディアが、忘れられかけた地域の記録や人々の想いを掘り起こし、つなぐ役割を担います。
🍶🎓事例3: 多様なテーマと参加者
酒ペディア & 3Qタウン
- 酒ペディア: 日本酒など「酒」をテーマにしたエディタソン。地域の酒蔵や食文化を発信。
- 例: 信州、京都、名古屋などで開催。著者は丹後の〈竹野酒造〉の記事作成・加筆に関与。現地訪問による深い理解の重要性を認識。
- 3Qタウン(Thank You Town): 高校生と協働したウィキペディアタウン。
- 場所: 琴引浜(鳴き砂)。NPO「琴引浜ガイドシンクロ」(丸田智代子氏)が主催。
- 目的: 次世代への環境保全意識と地域愛の醸成、デジタル記録の継承。
- 成果: 高校生が主体的に参加し、〈琴引浜〉〈鳴き砂〉〈はだしのコンサート〉などを編集。質の高い学習機会を提供。
テーマ設定や参加対象を工夫することで、ウィキペディアタウンは多様な広がりを見せています。
🤔地域情報編集の難しさ
正確性と多角的な視点
- ✅検証可能性: 信頼できる情報源(文献など)に基づく記述が必須。個人の意見や未発表の研究はNG。
- 🚫偽文書問題: 地域史には偽文書(例: 椿井文書)が紛れている可能性も。情報源の批判的吟味が重要。
- ⚖️中立的な視点: 複数の説がある場合、一方に偏らず公平に記述する。
- 🌟特筆性: そのテーマが独立した記事として成立するだけの著名性・重要性があるか。「うちの町には何もない」は思い込みかも?
- 👤存命人物の配慮: プライバシーと尊厳を尊重し、特に慎重な編集が求められる。出典があっても書くべきでない情報もある。
- 📸著作権: 文章・画像ともに著作権を遵守。特に写真利用(コモンズへのアップロード)はライセンス確認が必須。
単に情報を集めるだけでなく、その情報の質を見極め、適切に表現する能力が求められます。
🏘️➡️💾消えゆく記憶を記録する
「亡び村」から「消えない村」へ
- 背景: 日本各地、特に丹後半島などで進む過疎化、廃村(廃校)。
- 課題: 住民がいなくなると、地域の歴史や文化に関する記憶や記録が失われやすい。
- ウィキペディアの役割: アクセスしやすいデジタルな形で、消えゆく集落の記憶を記録・保存する(デジタルアーカイブ)。
- 事例(尾坂): 離村後も住民が維持会を結成し「記録簿」を書き継ぐ。物理的な町がなくてもコミュニティは存続。
- 事例(宇川): 廃校となった〈丹後町立虎杖小学校〉や、地域の教育史、廃村に関する項目(〈丹後町の離村・廃村〉)などをウィキペディアタウンで作成。
ウィキペディアタウンは、失われゆく地域の歴史や文化を「消えない村」として未来に継承する手段となりえます。
🚀ウィキペディアタウンを始め、続けるには
イベントから日常へ
- 🔑成功の鍵:
- 地域住民、図書館、専門家、ウィキペディアンなど多様な主体の協働。
- 地域の文脈に合わせたテーマ設定と、無理のない計画。
- 参加者全員が何らかの達成感を得られる工夫(写真投稿だけでもOK)。
- 🌱継続のために:
- 1回のイベントで終わらせず、地域の編集コミュニティ(例: edit Tango)を育成。
- 編集相談会や「見本市」形式など、気軽に参加・相談できる場づくり。
- ウィキペディア以外のツール(OpenStreetMapなど)との連携。
- 📚準備: 会場確保、Wi-Fi環境、資料収集(図書館連携)、ガイド手配、スケジュール作成、広報、アカウント事前取得推奨など。
- 💡注意点: 著作権、プライバシー、ウィキペディアの方針遵守。
誰もが町づくりの当事者となり、地域の情報を未来へつなぐ活動を育てていくことが重要です。
✨結論: ウィキペディアで未来を拓く
ウィキペディアタウンは、単なる情報編集イベントではなく、地域と人をつなぎ、未来を創造する可能性を秘めた活動です。
- 🔗地域力強化: 共通の目標に向かう協働作業が、新たなつながりと「強固な地域力」を生む。
- 💾記憶の継承: デジタルアーカイブとして、地域の歴史・文化・人々の営みを記録し、後世に伝える。
- 🎓学びと成長: 情報リテラシー、調査能力、協働スキル、地域への当事者意識を育む教育的価値。
- 🌐開かれた知: 誰でもアクセス・編集できるウィキペディアの理念に基づき、知識の共有と発展に貢献。
本書を通じて、一人でも多くの方がウィキペディアの編集者・執筆者となり、あるいはウィキペディアタウンの企画・運営に関わることで、地域とウィキペディア双方の豊かな未来が拓かれることを願っています。
あなたも、地域の百科事典づくりに参加しませんか?