トークショー台本

山田:皆さん、こんにちは。本日は「ウィキペディアでまちおこし」と題したトークショウにお越しいただき、誠にありがとうございます。わたくし、長年郷土史を研究しております、山田と申します。どうぞよろしくお願いいたします。
田中:皆様、こんにちは。私はこの地域を担当しております、地方新聞記者の田中:と申します。本日は山田先生と一緒に、ある素晴らしい本をご紹介し、皆様と対談形式で学んでいきたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。
山田:さあ、田中:さん。本日は、学校図書館司書である伊達深雪先生の著書「ウィキペディアでまちおこし」を紐解きながら、地域とインターネット百科事典であるウィキペディアがどのように結びつくのか、そしてそこから何が生まれるのかを探ってまいります。

田中:はい、山田先生。難しい話のように聞こえるかもしれませんが、この本には様々なエピソードが詰まっていて、とても分かりやすく書かれています。高校生にもきっと楽しんでいただける内容ですよ。

山田:さて、まずはこちらのスライドをご覧ください。本日のタイトルにもなっている「ウィキペディアでまちおこし」です。
田中:このスライドは、まさに今回のトークショウのテーマですね。ウィキペディアを使って地域を盛り上げようという、新しい取り組みについてのお話です。
山田:伊達先生は、ウィキペディアは一人でも編集できるけれども、イベントで様々な人々が集まって、協力して地域のことを調べ、発信していく。「その〝場〟で育まれたつながりが、さらに強固な地域力になっていく気がする」と書かれていますね。
田中:一人で黙々と作業するイメージがあるウィキペディアですが、みんなで集まってワイワイやるのが「ウィキペディアタウン」なんですね。
山田:そう、まさに地域の力を引き出す鍵がここにある。この本は、その活動を通じて見えてきた、地域とウィキペディアの可能性について書かれているんです。
田中:著者の伊達先生は学校図書館司書で、地域学習や情報教育にウィキペディアを活用することを推進されています。edit Tangoというボランティアグループを立ち上げ、年間20回以上もイベントに関わっているそうです。すごい熱意ですよね。

山田:はい、その情熱が詰まった一冊です。

田中:では、次のスライドに参りましょう。「ウィキペディアタウンとは?」です。
山田:会場の皆さん、お手元の資料、あるいはスクリーンにご注目ください。
田中:ここではウィキペディアタウンの基本的なことが説明されていますね。ウィキペディアタウンは、地域をテーマにウィキペディアを共同編集するイベント(エディタソン)だと書かれています。
山田:その起源は英国で、日本では2013年に横浜で始まったそうです。当初は「町歩き+調べ学習」として普及し、地域住民の関心喚起が主な目的だったと。
田中:「地域情報のアーカイブ化、地域振興、観光促進、教育利用、コミュニティ形成」が目的として挙げられています。単に記事を作るだけでなく、様々な効果が期待できるんですね。
山田:驚くべきは、その効果が実証されている点です。「イタリアとドイツの研究機関が、スペインの複数の都市を無作為に抽出し、それら都市のウィキペディア項目に高画質な写真や詳細な解説文を加え、数カ国版で展開したところ、市内のホテルの宿泊数が増加し、観光収入が年間約10万ポンド増えたと推定される」という実験結果が紹介されています。
田中:ウィキペディアの記事が充実すると、観光収入が増えるなんて、目に見える効果があるんですね。アイデア次第で色々な活用ができそうです。図書館関係者の協力もあって、全国に広がっているそうです。

山田:ウィキペディアの「誰でも編集できる」という特性を活かして、地域の魅力を掘り起こし、発信する取り組み、それがウィキペディアタウンなのです。

山田:続いてのスライドは「事例1: こまねこまつり & edit Tango 発足」です。
田中:さて皆様、最初の具体的な事例です。
山田:伊達先生が京丹後市で初めてウィキペディアタウンを開催した時の話ですね。丹後ちりめん発祥の地、峰山町の金刀比羅神社にある「狛猫」がきっかけでした。
田中:地元のお祭り、「こまねこまつり」に合わせて「ウィキペディアにゃウン」という名前で開催されたんですって。可愛い名前ですよね。
山田:はい、ユーモアがありますね。「2018年「ウィキペディアにゃウン」開催。参加者が狛猫や神社に関する記事を作成・編集」という具体的な活動内容が書かれています。
田中:その結果、〈金刀比羅神社(京丹後市)〉や〈こまねこまつり〉の記事が作成・編集され、地域内外で評価されたそうです。地域初のウィキペディアタウンとして成功したんですね。
山田:このイベントの反響と手応えから、地域編集ボランティアグループ「edit Tango」が発足し、継続的な活動へと繋がっていった。地域のキーパーソンとの連携と、イベント後の地元からの反応が継続の鍵となった。ここが重要ですね。

田中:地域の魅力を掘り起こし、発信する活動が、新たなコミュニティを生み、さらに活動を広げていく。素晴らしい循環ですね。

田中:次は「事例2: WikiGap – 埋もれた丹後の女性史」です。
山田:女性史に関心のある方は、ぜひご注目ください。
田中:この事例は、ウィキペディア上の山田女格差、特に女性に関する項目が少ないという課題に取り組んだものですね。
山田:はい。伊達先生は、有名人物だけでなく、地域の産業や文化を支えた名もなき女性たちにも光を当てるという視点を持っていました。特に「丹後ちりめんの女工」のような方々ですね。
田中:そこで出会ったのが、書店主の東世津子さんという90代のご婦人でした。東さんは戦時下の経験や、郷土の女性たちの聞き書き記録を残す活動をされていたそうです。
山田:東さんとの出会いは、まさに歴史の証言との出会いでしたね。「戦時下に思春期を過ごした、ひとりの女学生の物語だった。…(中略)…軍服の縫工所で働いた。主にポケットの型板にそって縫い代を折りまげ、はりつけやすいようアイロンをかける仕事だった。」という東さんの過酷な経験が綴られています。
田中:胸が詰まりますね。「明治生まれの東さんの母はそんな織り手の一人だった。幼い弟の子守をしながら小学校に入学はしたものの、弟がむずかるので教室に居続けることはできず、いつも窓の外から授業風景を眺めるだけだった。小学2年で中退を余儀なくされ、13歳で機屋奉公に出てひたすら働いたのだと、東さんは聞いて育った」というお話も衝撃的でした。
山田:こうした女工さんの生の声を記録した文書は、東さんがまとめた『丹後のはた音』以前はほとんど存在せず、その後の丹後ちりめん研究の基礎文献の一つとなったそうです。
田中:すごいですね。無学を恥じながらも、名もなき女性たちの声を残そうとした東さんの情熱が、研究にまで繋がったんですね。伊達先生は、東さんの活動を知り、2020年に「WikiGap by edit Tango」というイベントを開催しました。
山田:このイベントで、〈丹後ちりめんの女工〉や東世津子さんご自身の項目など、15のウィキペディア項目を編集し、うち2項目が「良質な記事」に認定されたそうです。歴史に埋もれていた女性たちの存在が、ウィキペディアという形で世に示された意義は大きいですね。
田中:WikiGapは、インターネット上の山田女格差解消を目指す社会運動として世界中で展開されています。日本でも全国各地で開催されているそうですよ。

山田:埋もれた歴史に光を当てる、素晴らしい取り組みです。

山田:次は「事例3: 多様なテーマと参加者」です。
田中:ウィキペディアタウンは、狛猫や女性史以外にも、様々なテーマで開催されているようです。
山田:例えば、竹野酒造を題材にしたウィキペディアタウンin弥栄の計画。これは芦田久美子さんというトラベルコーディネーターの方が中心となって進められているそうです。彼女もまたWikiGapへの参加をきっかけにedit Tangoの主要メンバーになった方です。
田中:そして、京丹後市袖志地区での活動も紹介されていますね。「袖志の有名なところいうたら、棚田と、あとはなんといっても灯台なんやけど・・・・・・。灯台の記事を作るのは難しいんか?」という参加者の問いかけから、経ヶ岬灯台の記事について議論が生まれる場面です。
山田:〈経ヶ岬〉の項目に灯台の情報がすでに多く含まれている状況に対し、〈経ヶ岬灯台〉という単独記事を新たに作る方法として、「改名」「分割」「新規立項」の選択肢が示されました。これもウィキペディアの編集におけるリアルな一場面ですね。
田中:宇川地区での活動も興味深いです。「宇川のおばちゃんたちが地産地消の取り組みをしている、食品加工所」である「宇川加工所」。ウェブ情報がほとんどない中で、口コミで人が集まる賑わいぶりが伝わってきます。
山田:そうですね。地域の知られざる活動も、ウィキペディアのテーマになり得るのですね。これらの活動には、大学の学生さんから地元住民まで、多様な立場の人が参加しています。公共図書館や民間団体、個人など、様々な方が主催しているのも特徴です。
田中:様々なテーマで、様々な人が関わっているウィキペディアタウン。地域の課題解決や魅力発信に繋がる可能性を感じます。
山田:さて、ここまでいくつか具体的な事例を見てきましたが、皆さんも自分の住む町についてウィキペディアに書いてみたい、あるいは直してみたいと思ったのではないでしょうか?

田中:ええ、私も思いました!そんな方はぜひ、この伊達深雪先生の著書「ウィキペディアでまちおこし」をお読みください。ここにはウィキペディアタウンの始め方や続け方、そして知っておくべき大切なことが丁寧に書かれていますよ。

山田:続いては「地域情報編集の難しさ」というテーマです。
田中:ウィキペディアで情報を発信する上で、気をつけなければならないこともあるのですね。
山田:はい。特に重要なのは「信頼できる情報源に基づいているか」という点です。ウィキペディアは「独自研究は載せない」という原則があります。個人的な見解や、まだ世に出ていない一次資料だけを根拠にした記事は歓迎されません。
田中:なるほど。図書館にあるような学術書や信頼できる報道、公的な資料など、二次資料と呼ばれるものが重要なんですね。
山田:特に郷土史や地誌など、地域に関する情報は、古文書なども含まれるため、その情報源が信頼できるものか見極めるのが難しい場合があります。
田中:この本には、偽書「椿井文書」にまつわるエピソードが紹介されていますね。各地の歴史に関わる偽書がウィキペディアの記事に影響を与えかねないという話でした。
山田:「正しいと思われる内容と、一般に流布する虚構。単純に諸説あるというだけでなく、虚構は虚構である可能性も含めて書いておか」ないと、後から真実を誤解して書き換えてしまう人がいるかもしれない。その背景や評価を正確に書いておくのが正解だと、伊達先生は述べています。
山田:小野小町塚の項目についても、伝承は伝承として、偽書に基づく可能性も記したそうです。

田中:歴史的な事実と伝承、そして虚構の区別を明確にする。これは非常に大切な作業ですね。ウィキペディアタウンで正確な情報を発信するためには、その分野の専門家や、ウィキペディアの方針を理解している方の協力が不可欠なのですね。

山田:次は「消えゆく記憶を記録する」です。
田中:これは少し切ないテーマかもしれません。過疎化が進む地域のお話ですね。
山田:はい。この本では、ウィキペディアタウンが「ありふれた町の営みを後世に伝え残すことができる手段」であるという側面に光を当てています。
田中:かつて「亡び村」と呼ばれた離村・廃村集落や、限界集落が「消えない村」へと転生を目指す取り組みが全国各地で行われているそうです。インターネット上に地域の情報を残そうと試みているんですね。
山田:その一人が、新潟を拠点に活動するウィキペディアン、スティーブ・ミズさんです。彼は仕事で赴任した限界集落での経験から、「地域おこしは現実的でない」と感じ、記録を残す方向へ舵を切ったそうです。
田中:印象的なエピソードが紹介されていましたね。「縁のあった新潟県小千谷市真人町の集落〈若栃〉をウィキペディアに立項したところ、地域の人がとても喜んでくれたことが嬉しく、その活動を全国に広げるようになった」という話です。
山田:人口統計を参考に、消滅しそうな集落を選び、地元の図書館を通じて郷土資料を取り寄せ、記事を書く活動を続けているそうです。執筆後には現地でフィールドワークを行い、その様子をYouTubeやnoteで発信するなど、多角的に記録を残されています。
田中:記録を残す活動が、地域の人に喜ばれ、自身の原動力になっているんですね。伊達先生も、東京大学のワークショップで「過疎地における『消えない村』の作り方」というテーマで講演されたそうです。
山田:小山元孝さんの言葉として「未来を担う学生たちに地域の現実や『丹後』というキーワードが少しでも残ってくれたら、私の拙い講義も少しは役に立ったことになるだろう」という言葉が紹介されています。
田中:「消えない村」が実現するかは誰にも分からない。けれど、どこかで誰かがその試みを続けている限り、可能性はある。そしてその記録が、また別の誰かの試みの原動力になるかもしれない。

山田:ウィキペディアというデジタルな記録媒体が、地域の記憶を未来へ繋ぐ希望の光となる、そんなお話でした。

田中:さて、残すところあと二つのスライドとなりました。次は「ウィキペディアタウンを始め、続けるには」です。
山田:ここまで様々な事例を見てきましたが、具体的にどうすれば始められるのか、続けることができるのかについてですね。
田中:この本には、1回のイベントで終わらせず、地域の編集コミュニティを育成することの重要性が書かれています。edit Tangoのようなボランティアグループですね。
山田:はい。編集相談会や「見本市」形式など、気軽に参加・相談できる場づくりも推奨されています。また、OpenStreetMapなど他のツールとの連携も有効だと。
田中:具体的な準備事項もリストアップされています。「会場確保、Wi-Fi環境、資料収集(図書館連携)、ガイド手配、スケジュール作成、広報、アカウント事前取得推奨」など。
山田:中でもアカウント取得については、注意すべき点も紹介されていますね。「フリーWi-Fiや携帯電話会社、マンションや公共施設など多数がIPアドレスを共有している条件下では、その圏内で過去に悪質な編集をした人がいれば、その回線がウィキペディア側にブロックされていることもある」そうです。
田中:イベントで参加者がスムーズに編集できるように、主催者は事前に「アカウント作成者」権限を取得しておくことが望ましいと書かれています。これは短期間であれば比較的簡単に付与してもらえる権限だそうです。
山田:なるほど、こうしたノウハウはイベント運営者にはとても役立ちますね。また、著作権やプライバシー、ウィキペディアの方針遵守など、基本的な注意点も改めて強調されています。ルールを知らない人がいても、責めるのではなく、皆が初めて知る瞬間があることを理解し、敬意を持って接することが大切だと。
田中:ウィキメディア財団が、志を持つ個人の自発的な活動をコミュニティ基金を通じて支援しているという情報も興味深かったです。金銭的な支援もあるんですね。
山田:イベントの開催情報は、ウィキペディアのプロジェクトページやSNSなどで発信するのが有効だそうです。地域の資料や古い写真の持ち込みを呼びかけるのも良いとのこと。

田中:ウィキペディアタウンを企画・運営する上での実践的な知恵が満載ですね。

田中:さあ、最後のスライドです。「結論: ウィキペディアで未来を拓く」。
山田:まとめに入ります。
田中:この本全体を通じて伝わってくるのは、ウィキペディアタウンが単なる情報編集イベントではない、ということですね。
山田:はい。伊達先生は、地域と人をつなぎ、未来を創造する可能性を秘めた活動だと述べています。
田中:共通の目標に向かう協働作業が、新たなつながりと「強固な地域力」を生む。そして、地域の歴史や文化、人々の営みをデジタルアーカイブとして記録し、後世に伝える「記憶の継承」という役割もある。
山田:ウィキペディアというツールを使い、地域の人々が主体となって活動することで、地域の魅力を再発見し、発信していく。そのプロセスそのものが地域を活性化させる。
田中:まさに、「ウィキペディアでまちおこし」ですね。
山田:デジタルとアナログ、地域と世界が交差する新しい取り組み。伊達先生の活動とこの本が、多くの地域にとっての希望となることでしょう。
田中:本日は、伊達深雪先生の著書「ウィキペディアでまちおこし」を基に、ウィキペディアタウンの活動についてご紹介しました。
山田:この本には、今日ご紹介できなかった興味深いお話や、ウィキペディアの編集に関するさらに詳しい情報が載っています。
田中:ぜひ、皆様ご自身で手に取って、読んでみてください。きっと新たな発見があるはずです。

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